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岡山地方裁判所 平成12年(行ウ)8号 判決

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

本件は、被告が原告に対して平成一二年三月一日付岡調第三一四号で通知した、平成一二年三月一日から同年五月三一日までの期間、原告を岡山市における工事又は製造の請負、物件の供給その他の契約の相手方として指名することを停止する旨の処分は、違法な行政処分であるとして、原告がその取消しを求める請求である。

第二事案の概要

一  争いのない事実(なお、甲第三号証、第八号証、第九号証、乙第一号証、第二号証並びに弁論の全趣旨により容易に認められる事実も含む。)

1  原告は、土木工事設計施工の請負等を目的とする会社であり、指名競争入札の結果、平成一一年八月三〇日、岡山市から左記の土木工事を請け負い、施工中であったところ、被告は、原告に対し、平成一二年三月一日付岡調第三一四号で、平成一二年三月一日から同年五月三一日までの期間、原告を岡山市における工事又は製造の請負、物件の供給その他の契約の相手方として指名することを停止する旨の通知(以下「本件通知」という。)をした。

(ア) 工事名 一宮幹線(2工区)汚水管埋設工事

(イ) 工事場所 岡山市α地内

(ウ) 期間 工事開始日・平成一一年八月三〇日

工事完工日・平成一二年三月三一日

(エ) 請負代金額 一億六〇四四万〇〇〇〇円

2(一)  地方自治法第二三四条第二項及び第六項は、普通地方公共団体は、売買、貸借、請負その他の契約につき、政令で定める場合に該当するときに限り指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結することができる旨、及び、競争入札に加わろうとする者に必要な資格、競争入札における公告又は指名の方法、随意契約及びせり売りの手続その他契約の締結の方法に関し必要な事項は、政令でこれを定める旨規定し、これを受け、同法施行令第一六七条の四第二項は、普通地方公共団体は、契約の履行に当たり、故意に工事若しくは製造を粗雑にし、又は物件の品質若しくは数量に関して不正の行為をした者など、同項各号所定の事由がある者については、当該事由が発生した時点からの二年間一般競争入札に参加させないことができる旨規定し、これが同法施行令第一六七条の一一第一項によって指名競争入札の場合に準用されるとともに、同法施行令第一六七条の一二第一項は、普通地方公共団体の長は、指名競争入札により契約を締結しようとするときは、当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから、当該入札に参加させようとする者を指名しなければならない旨規定していることから、岡山市では、被告が岡山市契約規則(平成元年市規則第六三号)第二一条の規定に基づき指名競争入札の参加者として被告の承認を受けた者(以下「指定業者」という。)を当該入札に参加させるか否かを決定するに当たり、岡山市における工事又は製造の請負、物件の供給その他の契約について、その適正な履行と公正を確保するため、あらかじめ、一二項目からなる指名停止事由及び各指名停止事由毎に定める原則二四月以内の停止期間を定めた岡山市指名停止基準を設け、右の指名停止事由に該当する不当行為を行った指定業者に対し、被告が指名停止(既に指名がなされている場合はこれを取り消すもの。)の措置を執ることとしている。

(二)  本件通知に係る指名停止の措置は、前記汚水管埋設工事の施工に際し、原告が、作業現場を迂回するための仮設道路を築造したのに伴い、工事場所に車両及び歩行者を安全に誘導するための工事用看板を設置したが、右の工事用看板のうち四基につき、平成一二年一月一四日から同年三月三一日までを工期として施工していた岡山県森林組合連合会(以下「森林組合連合会」という。)発注に係る株式会社かみさい森林興産施工の造成工事に支障を与えるため、岡山市監督員から口頭で、被告から書面で再三にわたり移設するように指示を受けたにもかかわらず、右の指示に従い移設せず、このため、岡山市において工事用看板の移設を余儀なくされたことが前記岡山市指名停止基準に定める指名停止事由に該当するとしてなされたものである。

二  争点

1  本案前の争点

(一) 指名停止通知の行政処分性の有無

(1) 被告の主張

本件通知は、行政処分に該当せず、本件訴えは不適法である。すなわち、原告は、岡山市の指名競争入札に当然に参加する権利ないし法的地位があることを前提に、本件通知によってその権利が剥奪されたとして、本件通知に行政処分性がある旨主張するが、地方自治法第二三四条第一項は、売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約、又はせり売りの方法により締結するものとする旨規定し、これを受け、同法施行令第一六七条の一二は、普通地方公共団体の長は、指名競争入札により契約を締結しようとするときは、当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから当該入札に参加させようとする者を指名しなければならない旨規定するにとどまり、当該入札に参加することができる資格を有する者全員を当該入札に参加させなくてはならない旨規定していないことからすると、普通地方公共団体の長は、入札に参加することができる資格を有する者のうち何人を当該入札に参加させるか否かを決定するに当たり、自由な選択権を有するものであるから、原告が指名競争入札の参加者として被告の承認を受けた指定業者であるとしても、その入札参加に対する期待は事実上のものに過ぎず、被告から指名停止の措置を受けたことにより指名競争入札に参加することができないとしても、その権利ないし法的地位を剥奪されたということはできない。本件通知は、岡山市と指定業者が対等の立場で工事又は製造の請負、物件の供給その他の契約を締結するに当たり、その方法として実施される指名競争入札に原告を一定期間参加させる者として指定しないことを決定した旨告知したものであるから、その行為は、事実行為に過ぎず、行政庁が法令に基づき与えられた優越的地位においてその者の権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものに当たらない。

したがって、被告が原告を一定期間岡山市の指名競争入札に参加させない旨の決定を内部的に行い、それを原告に通知したからといって、右の通知は、行政事件訴訟法第三条第二項に定める行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当しない。

(2) 原告の反論

原告は、岡山市契約規則第二一条の規定に基づき指名競争入札の参加者として被告の承認を受けた指定業者であり、地方自治法第二三四条に規定する指名競争入札に参加できる権利ないし法的地位を有する者であるにもかかわらず、被告は、本件通知に係る指名停止処分をすることによって原告が岡山市の実施する指名競争入札に参加することのできる機会を三か月間完全に奪ったものであるから、本件通知に係る指名停止処分は、行政事件訴訟法第三条第二項に定める行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当することが明らかである。

(二) 訴えの利益の消滅の有無

(1) 被告の主張

仮に本件通知に係る指名停止措置が行政処分に該当するとしても、指名停止期間の末日である平成一二年五月三一日の経過をもって原告が行政事件訴訟法第九条に定める当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に該当しなくなった結果、本件訴えは訴えの利益を欠くに至ったものである。原告は、同条に定める処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者に該当する旨主張するが、地方自治法等の法令及び岡山市指名停止基準には過去に指名停止を受けたことをもって将来何らかの不利益を科する旨の規定は設けられていないから、主張自体失当である。原告は、指名停止に伴う名誉・信用に対する社会的評価の低下という被害を回復して原告を救済することは右の法律上の利益に該当すると主張するが、取消訴訟が違法な行政処分による法律上の効果を排除することを目的とする訴訟であって、社会的評価の低下といった事実上の影響を排除することは、取消訴訟の目的に含まれないから、同じく主張自体失当である。

なお、指名停止がされてもその旨を公表する制度は存在しないから、名誉・信用に対する社会的評価の低下ということはありえない。

(2) 原告の反論

被告は、仮に指名停止の措置が行政処分性を有しているとしても、指名停止の期間末日である平成一二年五月三一日が経過したことにより行政事件訴訟法第九条によって訴えの利益は消滅した旨主張する。しかし、同条は、処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する場合には、訴えの利益が消滅しない旨規定しているところ、被告がした指名停止処分によって将来原告が岡山市と一般競争入札、指名競争入札、随意契約、又はせり売りの方法により契約を締結する場合に有形無形の不利益を被るおそれがあるから、原告は、右の処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有し、処分期間が満了するか否とにかかわらず、訴えの利益があるというべきである。しかも、原告に対する指名停止の措置については同業者が入札等の状況から容易にこれを知りうることから、原告は、悪質業者と同視され、その名誉・信用に対する社会的評価は著しく低下することになるが、右の社会的評価の回復は、損害賠償請求という手段によっては十分に達成し難いものであり、本件通知に係る指名停止の処分を取り消すことこそ直截的な救済方法というべきである。仮に被告主張のように、社会的評価の低下が単なる事実上の影響であって、その回復が法律上の利益に該当せず、訴えの利益が消滅するとするならば、指名停止期間が三か月であるため、現在の裁判所における審理の実情からすると、到底右の三か月間に取消訴訟によって救済を受けることができない結果、原告において権利の救済を受けることは事実上不可能になるという極めて不合理なものであり、憲法第三二条が保障する国民の裁判を受ける権利は奪われたに等しいといえる。行政手続法第一条が行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に資することを法の目的として定めるとともに、第一二条及び第一三条においてそれぞれ処分の基準及び不利益処分をする場合の手続に関し所要の措置を講じることを求めているように、行政事件訴訟法第九条に定める法律上の利益の意義に関しても、既存の法的効果の取消しに拘泥することなく、行政処分の公正の確保と透明性の向上を図るという取消訴訟の現代的機能を発揮させるという見地からその内容が定められるべきものである。右の見地からすると、原告は、被告から制裁的・懲罰的処分として指名停止処分を受けたものであり、取消訴訟を通じ、その違法性を確認するとともにこれによって原告が受けた名誉・信用に対する被害の回復を図る必要があるため、右の法律上の利益があると解するのが相当である。

2  本案の争点

指名停止の適法性の有無

(一) 被告の主張

原告が設置した工事用看板のため、原告が汚水管埋設工事を施工していた道路に面する田における森林組合連合会発注に係る造成工事ができない状態にあった。このため、森林組合連合会からの依頼を受け、岡山市監督員が原告に対し平成一二年一月三一日以降再三にわたり口頭で工事用看板を移設するように指示したが、原告は、これに対し、明確な対応をしなかった。このため、岡山県からも要請があり、被告が原告に対し、同年二月九日、書面で工事用看板を移設するように指示した。しかし、原告は、指示期限になっても移設せず、このため、岡山市職員らが翌一〇日工事用看板を移設した。原告は、その後になって、移設しなかった理由につき、警察が移設を許可しない、地元住民が交通渋滞の激しくなることを理由に、森林組合連合会発注に係る造成工事に反対しているというが、そのような事実はなかった。原告は、いかなる理由があるせよ、被告がした工事用看板移設の度重なる指示に全く従わないため、岡山市職員らにおいて工事用看板を移設せざるを得なかったものであり、このことは、岡山市指名停止基準別表一二項八号の不正・不誠実な行為により岡山市に損害を生じさせる行為に該当する。また、岡山市が発注する請負契約等の相手方として不適当であることが明らかであるから、岡山市指名停止基準別表二項一号に定める一項以外で本市と契約した請負契約等に違反し、契約の相手方として不適当と認められるときにも該当する。

したがって、本件通知に係る指名停止措置は適法になされているものである。

(二) 原告の反論

被告は、原告がその再三にわたる指示にもかかわらず、工事用看板を移設しなかったことをもって岡山市指名停止基準に定める指名停止事由に該当すると主張するが、原告の行為は、同基準別表一二項及び二項のいずれにも該当しない。すなわち、原告が岡山市から受注した汚水管埋設工事場所は、交通量が多く、交通渋滞が発生しやすい場所であるため、原告は、工事現場付近の住民から、岡山市発注の汚水管埋設工事と森林組合連合会発注の造成工事が同時期に施工されると、交通渋滞が発生する可能性が更に高まり、公衆災害の発生の危険すらあることから、森林組合連合会の造成工事との調整ができるまで工事用看板をそのままの状態にしておいて欲しい旨の要請を受け、岡山市監督員から工事用看板移設の指示を受けたものの、地元住民との対立を避けるために、自ら工事用看板を移設することができなかったものである。ところが、岡山市監督員及び岡山市下水工事課職員は、右の事情について知りながら、これを無視し、何ら両工事の調整を行うことをしないまま、原告に対して工事用看板の移設を指示し続けたものであって、岡山市関係職員こそ不正・不誠実な対応をしたものであり、被告から原告の態度を非難・問責されるいわれはない。

第三当裁判所の判断

当裁判所は、本件通知は行政処分に該当するが、指名停止期間の末日である平成一二年五月三一日の経過をもって原告がその取消訴訟を提起する法律上の利益は消滅したものであり、このため、本件訴えは不適法であると判断する。その理由は、以下に述べるとおりである。

1  地方自治法第二三四条第二項及び第六項によると、普通地方公共団体は、政令で定める場合に限り、売買、貸借、請負、その他の契約につき指名競争入札の方法により締結することができる旨規定するとともに、競争入札に加わろうとする者に必要な資格、競争入札における公告又は指名の方法、随意契約及びせり売りの手続その他契約の締結の方法に関し必要な事項は、政令でこれを定める旨規定されているところ、地方自治法施行令第一六七条の規定により売買、貸借、請負その他の契約につき指名競争入札の方法により締結する場合、同法施行令第一六七条の一一第項において準用する同法施行令第一六七条の四第二項により、契約の履行に当たり、故意に工事若しくは製造を粗雑にし、又は物件の品質若しくは数量に関して不正の行為をした者(第一号)等にあってはその事実があった後二年間指名競争入札に参加させないことができる旨定めるとともに、同法施行令第一六七条の一二によると、当該普通地方公共団体の長は、当該指名競争入札に参加する資格を有する者のうちから当該指名競争入札に参加させようとする者を指名しなければならない旨規定されているところ、甲第九号証並びに弁論の全趣旨によると、岡山市では、右の同法施行令第一六七条の一二による指名に関し、岡山市指名停止基準を設け、岡山市との前記契約の締結に当たり指名競争入札に参加する資格を有する者で岡山市契約規則第二一条の規定に基づき被告の承認を受けた指定業者が、別表指名停止事由1過失による粗雑工事等、2契約違反及び契約締結拒否、3安全管理等の不適切、4建設業法等関係法令違反、5労働基準法等労働関係法令違反、6私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反、7談合、8贈賄、9反社会的行為による逮捕又は逮捕を経ない起訴、10入札参加関係資料における虚偽記載、11経営状態不良、12不正・不誠実な行為に該当する事実があるため、契約の相手方として不適当であると認められる場合に、岡山市建設工事競争入札参加資格及び指名審査委員会の審議を経て原則として最長二四月以内の期間指名を停止する取り扱いをしていることが認められる。

そして、被告の主張によれば、本件通知に係る指名停止の措置は、原告が岡山市から請け負った下水道工事の施工に当たり市監督員の看板移設指示に従わなかったことが、右の指名停止基準に定める2契約違反及び契約締結拒否のうち「1の過失による粗雑工事等に掲げる場合以外で市と締結した請負契約等に違反し、契約の相手方として不適当であると認められるとき」及び12の不正・不誠実な行為のうち「その他不正・不誠実な行為により市に損害を生じさせる行為」にそれぞれ該当するものとしてなされたものであるところ、被告主張のように、岡山市と指定業者間の建設工事請負契約は、あくまで契約当事者が対等の立場において締結するものであり、その場面では、岡山市が事実上はともかく、法律上は優越的地位に基づき公権力を発動するものでないことは明らかであるけれども、右の契約締結に参加することのできる資格及び機会という点からみると、右の契約締結の主体が公権力の主体である地方公共団体であるため、一般私人間における契約締結の場合とは異なり、本来であれば、個人であれ、法人であれ平等に与えられるべき機会につき地方自治法以下の法令の定めるところに従い制約を加えるものであり、右の参加の資格及び機会の制約に関する限りにおいては地方公共団体が優越的地位に基づき公権力を発動することによりその者の権利義務の範囲を画するものといって妨げなく、地方自治法施行令第一六七条の一二に定めるところにより被告が入札参加者を指名するに当たり、岡山市指名停止基準を設け、指名停止事由に該当する場合に当該指定業者に対し原則として二四月以内の範囲で定める期間指名を停止することは、当該指定業者から将来に向かって契約締結に参加する機会を包括的かつ一律的に奪う点で、その行為は、行政事件訴訟法第三条第二項に定める行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に該当するものと解するのが相当である。

この点に関し、被告は、普通地方公共団体の長は、入札に参加することができる資格を有する者のうち何人を入札に参加させるべく指名するか否かに関し自由な選択権を有するものであるから、指名競争入札の参加者として被告の承認を受けたからといって当該指定業者が入札参加に関して有する期待は事実上のものであるといってよく、指名を受けなかったために指名競争入札に参加することができないとしても、それによって何らかの権利ないしは法的利益を奪うことにはならないと主張するけれども、先に述べたとおり、指名停止の措置は、指定業者が指名競争入札に参加する資格を有するとしてもその資格の存在にかかわりなく当然に一定期間指定業者から指名競争入札に参加する機会そのものを包括的かつ一律的に奪うものであって、指名競争入札制度上指定業者が有する法的利益に制限を加えるものといってよく、この意味で個々の入札において双方が対等の立場で呈示する契約条件によって契約の成否が定まるため、指定業者の契約締結に対する期待が事実上のものに過ぎないといえるのとはその性質を異にするものであるから、右の主張は理由がない。

2  しかしながら、本件通知に係る指名停止の措置が取消訴訟の対象となる行政処分であるとしても、その内容は原告に対して平成一二年三月一日から同年五月三一日までの期間指名停止をするものであるところ、本件口頭弁論終結時点(同年六月二七日)で右の指名停止期間が経過していることからすると、原告は、もはや行政事件訴訟法第九条に定める処分の取消しを求めることのできる法律上の利益を有しないというべきである。けだし、同条によると、当該処分に期間が付されているため、処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者でなければ、当該処分の取消しを求める法律上の利益を有しないとされているところ、原告は、右の法律上の利益につき、本件通知に係る指名停止処分が適法な処分として残存するならば、将来岡山市の競争入札において原告が不利益に取り扱われる有形無形のおそれがある旨主張するけれども、過去に指名停止処分を受けたことがあるからといって、そのために例えば将来指名停止処分を受ける場合当然に指名停止期間を延長されるといった具体的な不利益取り扱いがなされることは、原告の主張しないところであり、地方自治法等の関係法令上も岡山市指名停止基準上も右の不利益取り扱いに関する規定が存在しないことからすると、処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益があるとは認め難いからである。

この点に関し、原告は、本件通知に係る指名停止処分を受けたことによってその名誉・信用が侵害され、社会的評価が低下したが、右の失われた社会的評価を回復するためには本件通知に係る指名停止処分を取り消すことがもっとも直截的な方法であって、損害賠償の方法によっては十分な満足を得ることができない、現在の裁判所における審理の実情では三か月という指名停止期間中に権利の救済を得ることは不可能であり、指名停止期間の経過によって訴えの利益が消滅するに至るならば、権利の救済は事実上不可能となり、国民の裁判を受ける権利は奪われたに等しい、本件通知に係る指名停止処分によって原告が受けた名誉・信用に対する社会的評価の低下が単なる事実上の不利益として救済されないとするならば、極めて不合理であって、取消訴訟を通じ、行政手続法で明確化された行政手続の公正と透明性を確保するという取消訴訟の現代機能は発揮しえないこととならざるをえないとして、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益があると主張するけれども、行政事件訴訟法第九条に定める処分の取消しを求める法律上の利益がある場合とは、当該処分によってもたらされる法律上の効果を除去する必要があることをいい、単に当該処分によってもたらされる事実上の効果を除去する必要があるに過ぎない場合は含まれないと解すべきであるから、指名停止処分を受けたことによって名誉・信用の侵害による社会的評価の低下といった事実上の影響が残存しているからといって、指名停止期間が経過した後も原告に本件通知に係る指名停止処分の取消しを求める法律上の利益があるということはできない。確かに、本件通知に係る指名停止処分のように行政処分に付された期間が短期間であるため、取消訴訟によっては違法な行政処分から受けた権利侵害に対する救済を図ることが事実上できない場合もありうるところであるが、原告の主張は、取消訴訟に対し法が定める制度の目的を超える機能を求めるものであるから、これを採用することができない。

第四結論

よって、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉温 裁判官 酒井良介 裁判官 竹尾信道)

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